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東京高等裁判所 平成2年(ネ)168号 判決

控訴人

(株)中川鉄工所(静岡県焼津市)

被控訴人

(株)ムラタ(静岡県榛原郡榛原町)

主文

本件控訴を棄却する。

事実

第一当事者が求めた判決

一、控訴人

1. 原判決を取り消す。

2. 被控訴人は、控訴人に対し、金90万円及びこれに対する昭和62年5月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3. 被控訴人は、原判決添付別紙被控訴人製品目録記載の機械装置を製造し、販売又は譲渡してはならない。

第二当事者の主張

以下のとおり訂正・付加するほか、原判決事実摘示「第二 当事者の主張」記載のとおりであるから、これを引用する。(省略)

六、六枚目表2行目から10行目までを次のとおり訂正する。

「三 抗弁

被控訴人は、本件実用新案の内容を知らないでこれと同一の考案をした者である訴外村田茂次(被控訴人代表者)からその内容を知得して、本件実用新案の登録出願日である昭和52年10月22日より前から、これを用いて被控訴人製品を製造・販売(譲渡を含む。以下同じ。)する事業をしていた。したがって、被控訴人は、実用新案法26条で準用される特許法79条により、被控訴人製品を製造・販売する事業の範囲内においては、本件実用新案権につき通常実施権を有する。より具体的に述べれば、次のとおりである。

1. 被控訴人は、その代表者である村田茂次が個人として営んでいた企業がいわゆる法人成りをすることによって、昭和51年3月10日に設立された会社である。

2. 村田茂次は、昭和40年6月ころ自動魚焼機を開発し、以来、自動魚焼機の製造・販売の事業を続けて来たが、その事業は、被控訴人の設立とともに、被控訴人に受け継がれた。

3. 自動魚焼機における問題の一つは、いかにして魚の焼付きを防止するかであり、この問題は、魚の片面多くは上側からのみ加熱する片面式自動魚焼機においては比較的重要性が少ないが、魚の両面のいずれの側からも加熱する両面式自動魚焼機においては極めて重要になる。魚が、両面から加熱されることにより、速く焼かれる反面特に焼き付き易くなるからである。そこで、村田茂次は、自動魚焼機を開発してその製造・販売を開始して以来、常にこの問題の解決のために創意工夫をこらし、種々の焼付防止装置を考案して、実用に供しうるかどうかを試みてきた。

4. その結果、村田茂次は、昭和44年までに、右問題の解決となる焼付防止装置を考案し、同年、「ムラタ式魚両面焼機」を開発し、その製造・販売を開始した。

5. 村田茂次が考案した焼付防止装置の仕組みには種々あったが、その主なものを挙げれば次の3つである。

巻き込み方式

焼室内のステイコンベヤーを3つのギヤーを用いていったん下方に巻き込んで中継部を設け、中継部において魚が乗り移るようにすることにより焼付きを防止する。

分断方式

焼室内ステイコンベヤーを2つに分断し、魚がその一方から他方に乗り移るようにすることにより焼付きを防止する。

突上げ方式

焼室内のステイコンベヤーを回転する棒等で下から突き上げることにより焼付きを防止する。

6. 村田茂次及び被控訴人が製造・販売してきた自動魚焼機の中の一部は、特に両面式のものについてはその中の多くが、右3つの方式のいずれかの焼付き防止装置を備えており、そのうち巻き込み方式又は分断方式のいずれかの焼付き防止装置を備えたものが被控訴人製品である。

理由

一、請求原因1ないし5の事実(控訴人が本件実用新案の実用新案権者であること、本件実用新案の構成、被控訴人製品の特徴)はいずれも当事者間に争いがない。

右争いのない事実関係の下では、被控訴人製品が本件実用新案の技術的範囲に属することは明らかである。

二、そこで、抗弁について判断する。

1. 成立に争いのない乙第17号証、乙第13号証、被控訴人代表者村田せつ尋問の結果(村田せつは、原審における尋問当時、被控訴人の代表取締役であったが、本件訴訟において被控訴人を代表する者とされていなかったから、本来証人として尋問されるべきであった。しかし、同人の代表者尋問は被控訴人の申し出に基づくものであり、また、これにつき控訴人からの異議もなかったので、右瑕疵は治癒されたと認められる。)、被控訴人代表者村田茂次尋問の結果を総合すると、抗弁1及び2の事実(村田茂次と被控訴人の関係等)を認めることができる。

2. 証人小池隆の証言によれば、被控訴人は、昭和51年5月、被控訴人が自ら製造した「ムラタ式鰹土佐焼機」を訴外マルコ水産株式会社に販売したこと、右土佐焼機は両面式であり、これには抗弁5でいう巻き込み方式の焼付き防止装置が設けられていたことを認めることができる。

右認定に関連して、証人増田進は、「控訴人が昭和54年にマルコ水産に鰹の土佐焼機を販売し自分が控訴人の従業員としてこれをマルコ水産の工場に納入したとき、マルコ水産の工場には他に鰹の土佐焼機は存在しなかった。その後昭和57年ころ以後マルコ水産の工場に魚焼機の修理に行ったときには被控訴人の製造・販売した鰹の土佐焼機がそこにあった。」旨の供述をしている。そして、証人小池隆の証言と弁論の全趣旨によれば、マルコ水産が被控訴人から鰹の土佐焼機を購入したのは一度だけであり、マルコ水産の工場は1つしか存在しなかったと認められるから、もし証人増田隆の右証言が正しいとすれば、マルコ水産が被控訴人から鰹の土佐焼機を購入したのは昭和54年以降である可能性が極めて高いということになる。しかし、前掲乙第36号証と証人小池隆の証言によれば、マルコ水産が、昭和51年5月以後継続的に多数回鰹のたたき(土佐焼き)を製造・販売していたことが明らかであり、そうだとすれば、昭和54年当時マルコ水産に鰹の土佐焼機が存在しなかったという証人増田進の証言内容の信びょう性には疑いを持たざるをえない。同証人の証言がもともと相当古いことを記憶のみに基づいて述べたものであること、一方本件全証拠によっても証人小池隆あるいはマルコ水産と村田茂次あるいは被控訴人との間に、前者が、マルコ水産の帳簿類を変造してまで後者のために有利に行動すべき関係があったことを窮わせるに足りる事実は見出せないことに照らせば、証人増田進の証言によって前記認定を覆すに足りる証拠とすることはできず、その他前記認定を覆すに足りる証拠はない。

3. 右1、2の認定を前提に、被控訴人代表者村田せつ、同村田茂次各尋問の結果により成立の認められる乙第3号証の三・四、証人水野邦彦、同内田博の各証言、被控訴人代表者村田せつ、同村田茂次各尋問の結果を総合すると、村田茂次は、本件実用新案の登録出願より前の個人営業のころから、本件実用新案とは全く無関係にそれと同じ内容の考案をして、その実施品としての被控訴人製品を継続的に製造・販売し、その事業が被控訴人の設立によって被控訴人に受け継がれ今日に及んでいることが認められ、この認定の妨げとなる証拠はない。

4. 右によれば、被控訴人は、本件自動焙焼機を含む被控訴人製品の製造・販売につき、実用新案法26条で準用される特許法79条により、本件実用新案権につき通常実施権を有するということができる。したがって、被控訴人製品の製造・販売行為は、被控訴人が本件実用新案権に対抗しうる正当な権原に基づいてしたものとして、本件実用新案権の侵害ということはできない。

三、以上のとおりであって、控訴人の本訴請求は、その余について判断するまでもなく理由がないから、失当として棄却すべきであり、これと同旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がない。

(牧野利秋 山下和明 三代川俊一郎)

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